「DJアレフと」
「優秀助手シーラの」
「文化祭放送〜」

説明しよう、ここ、メルデルビアにも学校はある。
学校では年に一度文化祭が開かれるのだ。

「説明になってないわよ。ていうか、これ、ある風景シリーズよね」
「まあ、細かいことは気にしないのが吉ですよ、アイラさん」
「フラッシュ、あんたはおおらかね」
「まあ、慣れましたから」
「というわけで、まずは文化祭のお客さんにインタビューから入ってみようかな」
「なにがと言うわけなのよ、ていうか、あんた誰よ」
「アレフ・コールソンです、お見知りおきを。趣味は女の子の部屋の鍵を集めること」
「そんなもん集めて空き巣でもするつもりなの？」
「アレフさん、いきなり初対面の方にそこから入りますか」
「いや、こういう子はストレートな表現の方がいいかなと思って」
「直球すぎでしょ」
「つか、おんなじ様な趣味の奴知ってるから驚きもしないわ」
「奴っていうのは言い過ぎかもしれないですよ」
「カタンはルシエルに甘いわね」
「甘いっていうか……」
「やあアイラ、今日もまたきれいだね、ところで、こちらの美しいお嬢さんは？」
「優秀助手のシーラです」
「やあ、シーラ、ここで出会ったのも多生の縁。
　ここは文化祭をやってるから、そこの喫茶店でどうかなお茶でも」
「こらこら、人の助手を口説くんじゃない」
「なるほど、アレフさんといい勝負ですね」
「それはともかく、文化祭ってなにやってるのかしらね」
「アイラさんは文化祭に来るのは初めてなんですか？」
「学生時代がなかったから仕方ないわよ。父さん母さんが生きてた頃は通えたけど
　母さんが病気になってからは学費も払えなくなったしね」

説明しよう、メルデルビアには奨学金という制度がないので
学費が払えないと学校に通えないのだ。
義務教育も小学校までなので、高校の学祭など論外である。

「まあ、保険制度もない街だしね」
「それはそれとして、シーラ、まずは喫茶店でお茶でもどうかな」
「だから人の助手に手を出すなと」
「ていうか、アレフにせよシーラにせよ、なにやってるのよ」
「私達は文化祭のための放送をやってるんです」
「つか、出歩いたらDJじゃなくてただのレポーターよね」
「アイラ、鋭い突っ込みだね」
「ていうか、せっかく文化祭に来たんだからなんか見て行きましょ」
「そういうわけで、まずは……」
「……シーラ、喫茶店へ……」
「いいかげんそのネタから離れなさいよ！」
「なあ、アイラ、あれ面白そうだから行ってみようぜ」
「アッシュじゃない、どこ行ってたのよ」
「どこっていうか、文化祭で買い食い」
「あんまり無駄遣いしちゃだめよ」
「お小遣いの範囲内でだよ」
「それならいいけど……って、何々『スーパーバーチャルリアリティ空間で君もエンジョイしよう』って？　
　なんだかあからさまに怪しいアトラクションね」
「バーチャルリアリティなら知ってますよ。仮想空間っていうものですよね」
「フラッシュ、それじゃ説明になってないし……」
「うん、まずはあの怪しげなアトラクションを取材してみよう、行くぞシーラ」
「はい、アレフさん」
「なあ、アイラ、俺らも行こうぜ」
「仕方ないわね……まあ、ただならいいわ」
「けちじゃのう」
「メリルが胸元から出てくるのはいつものことだからどうでもいいわ……」
「……ていうか、入ってるのは最初から気づいておったろうに」
「分かっちゃいたわよ。つか、普通に飛んで行きなさいよ」
「飛んでるだけでも普通じゃないじゃろ」

というわけで、ここはスーパーバーチャルリアリティのアトラクションの入り口である。

「ヘルメットとかいらないのかい？」
「そんなものなしだから、スーパーバーチャルリアリティだよ☆」
「どんなものなんだい？　いや、その前に君の名前は？」
「私は霰、霰・アインハルト、正式名称はプロトタイプナンバー7，略してP-7だよ」
「プロトタイプ？　ということは完成体もあるんだ」
「んー、完成体っていうのはないかな。計画はあったけど、途中で放棄されちゃったから」
「へー、そうなんだ。それで、君の正体は？」
「正体は秘密、じゃなくて、能力者であるオリジナル、カスミ＝アインハルトから主なイデア情報を受け継いだ、完成されたディゾナントだよ。
　詳しくはP-3シリーズを参照してね」
「それで、このスーパーバーチャルリアリティじゃなにができるのかな？」
「いろいろと出し物も考えたんだけど、普通に空を飛ぶ体験ができるようにしてみたよ」
「空を飛ぶ体験？」
「そう、空を飛ぶ体験。空を自由に飛んでみたいって、一度ぐらいは思ったことあるでしょ。
　それが体験出来るアトラクションだよ」
「なるほど、じゃあ行ってみようか」
「そうですね、アレフさん」
「それで、空を飛ぶ体験って、本当に空を飛べるの？」
「本当に飛んだらバーチャルじゃないよ。でも、ある程度は飛んでるかな」

そういうわけで、一同、バーチャル空間の中に入っていく。

「中もなんか普通に学園ですね、アレフさん」
「そうだねシーラ」
「つか、どこらへんがバーチャルなのよ」
「はーい、じゃあ早速飛行体験してみよか。
　まずは心を楽にして……途中まではこっちで誘導するからなにも考えなくても空が飛べるよ」
「……うわ、浮いた」
「軽く浮くところから体験してね☆
　浮いたらだんだんと高度を上げていくからね」

P-7がそう言うと、一同はだんだん高いところへと上っていく。
ふわふわと浮きながらの上昇だ。

「うわあ、なんか人が小さく見える」
「これ、本当に浮いてるわけじゃないんでしょ？　どういう仕掛けなの？」
「本当に浮いてるか浮いてないかでいえば、浮いてるんだよ。
　だけど、ここまでの高度はないかな。
　じゃあ、まずは学園の周りを一周してみようかな」

そう言うと、一同は学園の周りを高度30ｍ程度で飛行する。
いや、正しくは飛行しているような感覚を覚える。

「風が気持ちいいわね」
「フェイ、いつの間にあんた現れたのよ」
「さっき合流したのよ。
　何か面白そうなことやってるみたいだから」
「じゃあ、思い切って町外れまで飛んでみよか」

そう言うと、一同が一団となって、町外れのアイラの家まで高度と速度を上げて飛んでいく。

「ここからは自由に飛んでみてね。思った通りの早さ、思った通りの高さで飛べるはずだよ」

説明しよう、一同がいる場所は、やっぱり学園の中なのである。
が、スーパーバーチャルリアリティ空間〜SC空間の拡張なのだが〜をP-7が設定することで
メルデルビア全体を自由に飛び回れるようになっているのである。
一同リアルに浮いてはいる。が、高度は落ちても怪我しない程度の高さである。
姿勢を自由に変えられる程度の高さだ。

というわけで、一同はしばらく空の旅を満喫した後、元の位置へと帰ってきた。

「え？　それだけ？」
「次のお客さんが待ってるし、空を飛ぶ描写をしつこくしても仕方ないから終わるね」
「なんかすごいんだか……やっぱすごいのかな」
「さあ、シーラ疲れたろう。あの喫茶店へ……」
「ルシエル、しつこい男は嫌われるわよ」
「そうですね、アレフさん、疲れませんでした？　あの喫茶店も取材してみましょう」
「そうだな、じゃあ、行ってみるか」

そういうわけで、一同はぞろぞろと喫茶店へ入っていく。

「あら、いらっしゃいませ」
「イルミー、あんたなにやってるのよ。あんたここの学生じゃないでしょ」
「喫茶店の監修ですわ。学生さんから喫茶店をやるのに、コーヒーの出し方などを教わりたいというので」
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」
「……なんでメイド喫茶なのよ」
「そうしたいという希望でしたわ」
「あ、そ……なんでもいいから熱いコーヒーを、ミルクも砂糖も両方入れて」
「かしこまりました、お嬢様」
「……」

しばらくすると、イルミナの下で修行した学生がコーヒーをいれて持ってくる。
もちろん、全員分あるわけだが。

「あー、やっぱ落ち着くわね」
「落ち着いてばかりもいられないのがDJアレフ。
　ところでイルミナ、どうしてメイド喫茶の監修を？
　うちの学生と知り合った経緯などを教えてもらえれば」
「簡単ですわ。アイラさんの紹介で、街の喫茶店で時々アルバイトをしてます。
　学生さんもよく見える喫茶店なので、学生さんとも知り合いなんですよ」
「なるほど、それでマスターぶりも板についてるんだ」
「私はアルバイトですわ。マスターは別にいるんですよ」
「そうなんだ、イルミナ、君がアルバイト……」
「アレフさん、イルミナさんの個人的な話はそれくらいにしてはいかがです」
「シーラがそういうなら……」
「あらあら、助手さんに頭が上がらないんですね」
「そういうわけでもないけど、話を前に進めないとね」
「話を前に進めるのでしたら、体育館ではいろんな出し物を順番にやってるそうですわ」

そう言うと、イルミナは時計を見る。

「この時間でしたら、軽音楽の演奏をやってるみたいですわね」
「そうなんだ、ありがとう」
「……でも、もうすぐ終わりですわ。
　次の出し物は……」
「聞いたらつまらないから直接行ってみるよ、ありがとう」
「では、会計は生徒会のつけでお願いします」
「ちょ、待てよ、それ俺の……」
「まあ、それも悪いから各人自分の払いは自分でしましょ」
「人のおごりを無にするとはめずらしいのぉ。雪が降るぞ」
「だから秋には雪は降らないってば！」
「9月には雪は降らないかもしれんの」
「そのネタ誰にわかんのよ……」

体育館での出し物とはなにか？
そして、DJアレフとルシエルの対決の行方は？

「……対決もなにもしてないと思うんだけど」
「でも、続くみたいですよ、アイラさん」
「引っ張るわね」

というわけで、次号請うご期待。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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