〜カレンさんがくれた季節〜



　あ〜あ、なんてこったい、あいつだけは俺を裏切らないと思ってたのによぉ

　・・・・などというセリフも空々しく心の中で響く

　そう、俺の友人が次々と彼女を作っていく中、

　なぜか俺だけが取り残されてしまったのである



　いや、あいつらそれなりに努力はしてたからなぁ

　どうやら俺がのんびり構えている時、連中は密かにナンパでもしていたのだろう



　そうとりとめのない事を思いながら歩いていると、ふと、道ばたに

　一人の女性が、塀に背を預けて、すわっているのが見えた



　？？？？



　俺がじっと見ていても、彼女はぴくりとも動かない

　もしかして・・・・まさか・・・・死体？



　俺は、そう思うと急に怖くなった

　俺はまず最初に逃げようとして・・・逃げられなかった

　？？？？なんでだ？もしかして、心霊現象・・・・・

　あ、そうか、単に足がすくんでいるんだ

　なっさけねぇなぁ、我ながら



　『俺も男だ、逃げたりしないぞ！』



　俺は、俺自身に言い聞かせると、その動かない女性をじっと観察した

　女性にしては大柄なほうだが、今時では驚くほど大きい訳でもない

　男性だとすれば標準的な背丈だろう

　金髪の髪を緑の布で覆っている

　え？美人かって？

　う〜ん・・・いわゆるお嬢様系じゃないな

　凛々しいというのとも違うだろう

　そうだなぁ、そういうんじゃなくて・・・う〜ん・・・お姉ちゃんってのが

　一番近いかもしれない

　近所の悪ガキ集めてリーダー張るようなお姉ちゃん

　それなりに頼りがいがあって、物知りで、恩着せがましくて・・・・



　「聞こえてるわよ」

　わっ！しゃ、しゃしゃしゃ、しゃべったぁ！

　「まったく、人をのぞき込んでぶつぶつ独り言を言うなんて、男らしくないぞ」

　あ・・・その・・・ごめん

　いや、その…死体かと思って・・

　「ふふっ、じゃ、びっくりさせちゃったかな？」

　い、いや・・べつに・・・



　な、なんなんだ一体？



　「ところで、おね〜さん、おなか空いちゃって・・無一文なんだ」

　・・・・・それって、おごれってこと？

　「行き倒れを見捨てるなんて男らしくないぞ」

　・・・・なんじゃそりゃ、っていうか、いきなり初対面の相手に

　きりだす話なのか？それ・・・

　「いやなの？」

　いや、そうじゃなくて・・・・大したものは無理だぜ

　「はい、じゃあ決まりね」

　はいはい、んじゃそこのファミレスでいい？

　「どこでもいいわよ、ところで、あなたの名前は」

　おいおい、人の名前を聞くときには、自分の名前を名乗るのが礼儀じゃないか？

　「ふふっ、それもそうね・・・私の名前は、カレン・レカキス

　　カレンって呼んでね」

　カレンさんか・・・



　−−−−−−−−−−○−−−−−−−−−−−−−−−−−○−−−−−−−−−



　俺は、ファミレスに入ったとき、最初に恐れたのは

　彼女がお約束に店を食い倒すぐらいに食べるのではないか？

　ということだった



　「ごちそうさま、ありがとう、おいしかったわよ」

　あ、ああ・・・どういたしまして



　だが、幸いなことに彼女は一人前で十分満足してくれたらしい

　う〜ん・・・まあ、美人のお姉さんと食事を共にする楽しみからすれば

　まあ、このくらいの出費は許容範囲だろう



　「ところで、きみはこれから用事でもあるの？」

　いや、俺は別に家に帰るだけなんだけど

　「ふ〜ん・・・じゃあさあ、おね〜さんにつきあってくれない

　　せっかくおごってもらったんだから、少しぐらいは恩返ししたいし」

　恩返しって？期待していいのかな？



　俺は、多少よこしまな期待と、ど〜せ肩すかしだろ、っていう

　軽いあきらめの気持ちを持って、そう答えた



　「そうねぇ、ま、手間はとらせないからついてきてよ」

　別にいいけど・・・



　う〜ん・・・もしかしたら、美人局の一種で、のこのこついていくと

　身ぐるみはがれる、というやつかもしれない



　だが、自慢じゃないが今の俺は大して金を持っていない

　さっきのファミレスの代金を払えば、あとは３千円と残ってはないのだ

　まあ、これなら身ぐるみはがれてもあと二週間ひもじい思いをすれば済む話だ



　あるいは、キャッチセールスの一種で、のこのこついていくと

　契約書にサインさせられるって奴かも知れない

　だが、自慢じゃないが俺は判子など持ってない

　よしんば持っていたとしてもだ、自慢じゃないがこの手の商売には

　一度引っかかったことがある

　なに？自慢にならない？そりゃそうだ

　だが、そのときの経験からこの手のセールスに対処するやり方ぐらいは

　ちゃんと心得ているつもりである

　そう・・・話がいいところまで来ると、必ず何かにサインしろと行って来るのだ

　だが、予めきちんと分かっていれば・・・そう、実はこの種の商売は

　クーリング・オフが効く場合が大半なのである

　おかしいと思ったら即消費者センターへ電話、これが鉄則



　「きみねぇ、人をなんだと思ってるの？」

　え、もしかして・・・

　「しっかり、聞こえてるわよ」

　あはは、でもよくある話だからさぁ

　「そうなんだ・・・こっちの世界って物騒なのねぇ」

　うん・・・そうだね



　？こっちの世界？

　田舎から出てきたんだろうか？そうだな・・確かに、俺のふるさとにだって

　んな物騒な商売やってるやつはあんまりいないからなぁ



　「ねぇ、最後に効いてみたいんだけど？」

　なに？カレンさん？

　「きみ、彼女とかいる？」

　う、べ、別に・・・・いないよ

　「そう、ならよかった、じゃあ、おね〜さんが恩返しして上げる」

　恩返し？って・・・うわぁ！！！！



　俺が最期に見た光景

　それは、カレンさんが一抱えもある鉄骨を振りかぶって殴りかかってくる図だった



　−−−−−−−−−−○−−−−−−−−−−−−−−−−−○−−−−−−−−−



　う、うう・・・・・・ま、まさかいきなり鉄骨でぶん殴られるとは・・・・・

　？あれ？なんで意識があるんだ？

　もしかして、夢だったなんて落ちじゃないだろうなぁ



　いや、今までのことがあまりに非現実的だったじゃないか

　夢だよ夢、ぜったいに夢なんだ



　それにしては妙にリアリティのある夢だったな



　「はい、みんな、ちゃんと願い事が叶ったわよ」

　？なんだ、あの声は・・・・カレンさん？

　「・・・・・こんどはこの方ですか・・・・・」

　「カレンもうまいことやったなぁ」

　「あの？この方生きておられるのでしょうか？

　　ぴくりとも動きませんが（ほにゃっ）」

　「大丈夫みたいね、息はあるようだから」

　「わ〜い、これでまたみんな旅に出れるんだね（はあと）」

　「そうですね、さて、今度はどんな遺跡を巡りましょう」

　「・・・あの・・・本当に、この方をつれていって・・いいんでしょうか・・」

　「大丈夫よ、この子も独り者みたいだったし」

　「・・・不幸なのは私だけじゃないんですね・・・」

　「ふん、なんにせよ、今度こそ俺様が勝ってやる」

　「なによバカイル、今度は私が勝つんだからねっ！」

　「なんだとがきんちょ」

　「べ〜だ」

　「まあまあみなさん、そろそろこの方が目を覚ましますよ」

　「ほらっ、いつまでねてんのよ、みんな待ってるんだから！」



　ぺちっ



　？？なんなんだ一体、ここはどこだ？



　俺が辺りを見回すと、そこはだだっ広い草原だった

　俺を取り囲んで何人もの人がいる



　その中には、あのカレンさんもいたのである



　カレンさん・・恩返しって、鉄骨で殴り飛ばすことなのか？



　「ふふ・・ごめんごめん、ちょっときみがかわいかったから

　　いい話を聞かせて上げようと思ったの」

　いい話？



　ぽろろん



　リュートをかき鳴らす音が聞こえた方を見ると

　男とも、女とも、年寄りとも、若者ともつかぬ

　妙な人物がいた

　その人物が俺に語りかけてくる



　「そうです、この世界には５つの魔宝という宝があります

　　その宝を集めて暁の女神に出会うと、どんな願いでも叶えてもらえるのです」

　で、もし集められなかったら？

　「一生あんたこの世界にとどまることになるわね」

　そういって話しかけてきたのは、出来損ないのぬいぐるみみたいな

　・・・・まあ、たぶん妖精の一種なのだろう



　「だれが出来損ないのぬいぐるみよっ！」



　い、いや・・・その・・・



　はっ



　あの・・・もしかして、それって、俺には選択の余地がないってこと？



　「う〜ん・・・まあ、そういうことになるかな？」



　あの・・・カレンさん・・・そういうことになると思うんだけど・・・・



　こうして、助けたカレンさんに連れられての波瀾万丈の冒険が始まった



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい