金ちゃん。

 

べつに、桜吹雪の入れ墨のある遊び人で、正体が北山奉行というわけではない。
日本のお笑い界の重鎮である。
かつて、一話３００円のオムニバス映画のスポンサーをしたことでも、
その筋では有名だ。

 

この金ちゃんが、野球チームを作った。
草野球チームなどではない。
当面、都市対抗野球に出場することが目標で、
最終的には全国優勝を目指す 、本物の野球チーム作りをしようというのだ。

 

この野球チームに、女子高生が選手として入団することになった。

 

話は、ここから始まる。

 

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ここは、藍仙高校野球部。
ジョージと司が草野球の日程を確認している。

・・・暇だ。

 

そりゃそうだろう。超高校生級の投手と、その球が捕れる捕手がいては
まじめにやると勝負にならない。これでは相手の方が避けていくのだ。
逆に、まともな野球部と勝負しようとすると、バックがザルで勝負にならない。
やっぱり、相手としては避けられてしまうのである。

 

「・・・相手を見つけてきたよ」
「あ、部長。お久しぶりです」
「ジョージ君日本語が上手になったね・・・でも、もう私は部長じゃないよ・・・」
「僕は副部長ですから。前例がありますよね」
「・・・そういえば、第二科学部は当分部長が空席だったね・・・」
「由樹ちゃん、相手が見つかったって、一体どこと」
「・・・そうだね・・・二人ともこれを見てよ・・・」
「ええと、草野球チームみたいだけど、本当にうちとの勝負を受けてくれたの？」
「・・・ただの草野球チームじゃないよ・・・元プロ野球選手の加鳥が
　選手を選抜して、監督をやっているチームだから十分強いはずだよ・・・」
「・・・そことやるのに、選手を集めるの？」
「・・・高校生最後の試合になりそうだからね・・・」
「由樹ちゃん、言っておくけど」
「・・・今度はあくまで草野球。有樹みたいないかさまはなしでやれるよ・・・」
「じゃ、久しぶりに野球部らしくなりそうですね」

 

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こうして、久しぶりに野球部は、まともな部員を募集することになったのである。
ところがどっこい、甲子園の時と違って男性限定というわけではない、
となれば黙ってない人もいるわけで・・・

 

「マナ姉。司くんとなんかあったの？」
「・・・なにもないわ・・・」
「そう？妹にも隠し事なんてよくないよ」
「・・・何も隠してないわよ・・・小林くんが何を調べていたか聞いてみただけよ・・・」
「あ、そ。小林くんはマナ姉に興味あるみたいだね」
「・・・そうらしいわね・・・」
「そうそう、その小林くんが、こんど試合やるらしいんだけど、
　ちょちょっと占ってちょうだい」
「・・なにを占えばいいのかしら・・・」
「私も参加するから、参加するにあたっての注意事項をやってよ」
「・・・・参加は確定なのかしら・・・」
「もっちろん！こんな楽しいこと捨てておけるわけないじゃない。
　立香も参加するように誘ったよ。・・・わくわくしてくるじゃない」
「・・・私はどきどきするわ・・・それに・・・本来の目的を・・・」
「本来の目的にもこれは合致してるんだって。まあ不沈戦艦に乗ったつもりでどーんと構えてよ」
「・・・不沈戦艦に限って沈んでる気がするわよ・・・」
「そういうのは霰っちに言ってやればいいって。
　とにかく占ってってば」
「そうね・・・・」

 

・・・・・

 

「正義の逆位置ね」
「それって、どう読めばいいの？」
「・・・あまりに見た通りすぎるわ・・・なにか、たくらんでるんでしょ？」
「え。だって、参加するんだったら、ＳＣ空間使わないとなんにもできないもん」
「今回は参加しない方がいいわ」
「えー、だって参加するって言ったのに〜」
「応援の方に回りなさい。悪いこと言わないから」
「う゛ーう゛ーう゛ー」
「・・・だだをこねずに・・・」
「う゛ーう゛ーう゛ーう゛ー。マナ姉。参加するにあたっての注意事項っていうのを聞いたのに」
「・・・見ての通りよ・・・正義の逆位置。いかさまでもしたら？ってことよ・・・」
「・・・支援の星とかない？」
「・・・・一枚引いてみて・・・」
「じゃ、これ」
「・・・・塔の逆位置・・・誰か心当たりないかしら・・・」
「どう読めばいいのよ」
「・・・・ＳＣ空間を使ってなにかやっても、
　フォローしてくれそうな人を見つけておく事ね・・・」
「あ、それなら心当たりある。ありがと。マナ姉」

 

どんなサポートを呼ぶつもりか知らないが、とにかくシルフィは
ジットしていることが出来ない性格であるようだ。

 

「・・・・私も・・・行かなければならないみたいね・・・・」

 

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♪るんるんるん♪

 

「どうしたのかね？桂くん」
「先輩からメールが入って、これからしばらく
　藍仙高校に来るんだそうです」
「ほう。Ｐ−７が来るのか。一体何が始まるんだね」
「三原先輩が、最初で最後の野球部員としての試合をやるんだそうです。
　私にも選手として参加するように、っていう話なんですよ」
「・・・それはさすがに無理があるだろう。Blue Ribbonを使うのでは
　公平な勝負とは言い難いな」
「・・・先輩が、先方の了解をとってきたそうですよ」
「まさか」
「本当です。今さっき入ったメールはそれを伝えるものなんです」
「・・・P-7は一体どんな説明をしたんだ？」
「それは先輩に聞いてみてください。とにかく、
　これで晴れて私も参加できます。先輩も一緒に練習してくれるそうです」
「ふむ・・・それは、楽しそうなイベントだな」
「先生もそう思われるでしょ」

 

霰を見ること神を見るがごとき立香と、
科学の事以外のことが目に入らない
正真正銘の科学者「先生」にとっては、
先方が同意した、というだけで十分であるらしい。

 

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「・・・それで、ハンディキャップとして・・・」
「参加するのは現役の高校生だけ。SC空間は肉体の能力を高めるためにだけ使っていい。
　って条件ならだって」
「それでも十分卑怯だろ」
「その代わり、向こうも友達を連れてくるんだって」
「友達って？」
「・・・現役のプロ野球選手。どうせ２軍だろうけど、十分脅威になるね」

「・・・・・・・・・すでに草野球じゃないね・・・・」
「（あは）だから超人劇場なんだよ」
「先輩！」

 

突然、妖精サイズでテーブルの上に現れる霰。
昔使っていた三次元投影機を動員しての登場である。

 

「じょぶじょぶ。私が参加しなければ十分フェアな勝負になるよ」
「・・・先輩、でもいいんですか？SC空間の秘密とかばらしちゃって」
「公然の秘密になってるから大丈夫・・・（首を振って）・・・
　・・・もう、隠しておかなきゃならない相手には、ばれちゃってるよ・・・」
「・・・野田さん。まだ退院されてないですね」

 

そういうことなのだ。
今までは無事に過ごせたとはいえ、
その無事は、破局と紙一重の無事に過ぎない。
すでにオーギュメントやディゾナントを作る能力は
拡散してしまった後なのである。

 

そして、完成されたディゾナントを作る能力すら。

 

しかし、そういうこととは全く無関係に、
野球の日が近づきつつあるのだった。