ここは、藍仙高校の第二科学部部室。
集まっているのは、シルフィが呼びかけた鬼ごっこの参加者と、
立香が審判を頼んだ霰である。

「あのさ。始める前にちゃんとルールを決めておこうよ」

 

いつの間にか、シルフィ転入記念鬼ごっこ大会になった
シルフィの敵戦力確認作戦。

 

大体が、仮想敵だったはずの立香と組んでいるのだから、
すでに当初の目的は完全に忘れている。

 

もちろん、はじめから当初の目的など知らない、
司や伊織や栞にとってはどうでもいいことだ。

 

もちろん、楽しければなんでもありの霰にとっても。

 

「いいよ。で、どんなルールにするの？」

 

シルフィ自身が完全に当初の目的を忘れているようなので
これはこれでどうでもいいらしい。

 

「ああ、じゃあ俺が考えてきたルールはこれだよ。

 

・風紀に捕まったらリタイア。

・自転車とかの様な乗り物類は禁止。

・鬼ごっこだから「タッチ」で捕まえた事になる。

・参加者以外の人の手を借りてはいけない。

・相手に危害を加えたり、足止めをするような行為の禁止

・逃げ延びたら鬼の側のだれか好きな子（マナ・シルフィ・立香・・・）とデートできる。

・鬼が勝ったら逃げる側のだれか好きな子（司・伊織ん・栞ん・・・）とデートできる。

 

　・・これでいいかい？」
「いいよ」
「あ、そうそう、虎次郎の手を借りるのはあり？」
「べつにいいよ」
「あの、ところで・・・ほかにも参加予定の人っていたと思うんですけど、
　ほかの方はどうなったんですか？」
「え？他の人？
　『立香とデート出来る』 って言っちゃったから、
　みんなやめちゃったみたい。
　右左も今回は本気で阻止にくるらしいよ☆」
「そうなんですか。…それで、私たちだけになったんですね」
「・・・・命の保証が出来かねますから・・・」
「ま、そんな些細なことは気にしない☆
　じゃ、さっそく始めよ♪ええと・・・いくつ数えればいいかな？」
「１００数えてよ」
「Ｏ．Ｋ．・・・1MIPSでカウントしていい？」
「あの・・・それでしたら、３分待つことにした方がいいと思います」
「うん、じゃ、３分待ちね☆」

 

---

 

こうして、第二科学部組と、シルフィ達の鬼ごっこが始まった。

 

しかし、鬼ごっこ、と言っても、シルフィやマナは立香が相手である。
ＳＣ空間に取り込まれたなら全く勝ち目がない。
ということは、見つかったら勝ち目がないというわけで、
鬼ごっこと言うよりはかくれんぼに近いものになってしまう。

 

「栞………すまん、俺の野望のための礎となってくれ！」
「うん、いいよ」

 

あっさりと納得する栞。

 

「じゃ、無事逃げ延びれたら後で私とデーとしてね」
「え゛」
「いいでしょ（にこ）」
「・・・ええ、と・・・・・」
「いいでしょ☆」
「・・・…わかった、俺も男だ、約束する」
「わーい、お兄ちゃん大好き」
「わ、よせ、栞・・・・」
「みーつけた♪」

 

そりゃこれだけ騒いでいれば否応なしに見つかるだろう。
栞＆伊織の元に現れたのは、シルフィとマナのコンビであった。

 

「栞、後は頼むぞ！」
「まっかせて、お兄ちゃん」

「………………………お前達の勇姿は忘れない。
　忘れるまでは俺は忘れないだろう。許せ、妹よ………」

 

伊織は一目さんに逃げる一方、栞は適当な間合いを保ったまま
シルフィ達に対峙する。

 

「マナ姉は水橋くんを追いかけて、私はこの子をやるから」
「・・・ わかったわ・・・」

 

マナは歩きながら伊織を追いかける。
走りながら、ではない。マナの体力では到底走って追いかけるのは無理なのだ。

 

「さて・・・じゃ、始めましょうか」
「Ready…GO!」

 

シルフィのダッシュと同時に栞も走って逃げ始める。
みるみるうちに栞とシルフィの差が開いていく。

 

・・・・・ぱたっ

 

「あれ？なにやってるの？」
「・・・・・・・・・」
「死んだふり？」
「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・
　だめ・・・気持ちは風のように走れても
　身体が全然ついていけない・・・・」

 

そうなのだ。
シルフィ、性格は霰のようであるが、
肉体的性能を強化する霰の能力は持っていない。
オリジナルと全く同じなのである。

 

結果、栞と勝負すればすぐに息切れしてしまうことになるのだ。

 

「あはは、それなら楽勝楽勝♪鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

 

どしん

 

「あれ？」
「二人ともなにやってるんです？」
「あ、右左ちゃん。鬼ごっこだよ、右左ちゃんもやる？」
「やりません！・・・あと、シルフィさんはなにをやっているんです？」
「廊下を走って息切れしたの」
「・・・まったく、二人とも手を掛けさせないで欲しいわ。
　上坂さん、手伝ってちょうだい、シルフィさんを保健室に連れて行くわよ」
「いいよ☆」

 

とりあえず、ＳＣ空間最強のはずのシルフィを自己犠牲でリタイアさせたのだから
栞の任務は成功したというべきであろう。
ついでに、右左も隔離出来たのだから一石二鳥と言うべきか。

 

期待していい以上の成果を上げた栞であった。

 

---

 

「小林さん、そんな所に隠れても無駄ですよ」
「あれ？なんでわかったの？」
「 勘です。こういうのも先輩に教わったんですよ。
　神経衰弱一発勝負はなかなか面白いです。
　でも面白いって思っているうちはまだまだなんです」

 

こういうところで霰を引き合いに出すな、とは思う。

 

「立香ちゃんごめん。追ってこないでね」

 

そう言うなり、司は三階の窓から飛び降りる。

 

「え？」

 

下がコンクリートになっていればともかく、
下が花壇になっていれば司にとって着地するのは難しくない。
とはいえ、こんな事をすれば間違いなく後で園芸同好会に怒られるだろう。

 

「小林さん、そういうのはよくないと思います」

 

立香はブルーリボンを変形させて非常用シューターに変えると
三階の窓から滑り降りて追いかける。
そう、シルフィ達は最強の相手に最強の追っ手、立香をぶつけたのだ。

 

「立香ちゃん、それなら体力勝負で行くよ」

 

そういうと司は走って逃げ出す。
いや、普通に走って逃げる段ではない、
立香から適当な間合いをとって走りながら、
ぎりぎりまで立香を引きつけて素早く駐輪場の屋根へ、
そして、そこから校舎へと飛び込んでいく。

 

「・・・小林さん、それならこっちも本気で行きますよ」

 

ブルーリボンを釣り竿に変形させると２階の窓にテグスを引っかけて
自分自身をつり上げて追いかける。

 

きょろきょろ。

 

「あ、小林さん、危ないですよ」

 

司は立香から逃げるためにこんどは二階の窓から
三階へ飛び上がっていったのだ。
ここまでくると忍者の世界である。

 

「少林拳法は幅が広いからね」

 

さいですか・・・。

 

あれ？立香が追ってこない。
一体どういうつもりだろう？
司は神経を研ぎ澄まして待つ・・・。

 

次の瞬間、司はあり得ない物を見た。
突然自分の立っている床が消滅したのだ。

 

万有引力の法則に従って下の床へと落ちていく司。
もちろん司の運動神経なら着地にはなんの問題もないが・・・

 

「タッチ！はい、これで小林さんは捕まりましたね」
「え？一体なにをしたの立香ちゃん」
「ＳＣ空間を展開して小林さんの立っている床を
　カレイドフェノムで崩壊させたんです。
　でも、小林さんオーギュメント持っていなかったんですね。
　持っていたらＳＣ空間を展開した時に私が何を狙ってるかわかったはずですよ」

 

そうなのだ。ＳＣ空間に取り込まれて身動きとれなくなることを恐れた
司は、オーギュメントを持たずに勝負に出たのだ。
それが裏目に出たのである。

 

---

 

だが、オーギュメントを持っていてもどうしようもない、ということもある。

 

『ＳＣ空間を確認しました』

「・・・タッチ・・・」
「わっ！・・・マナ、一体どうやって・・・」
「・・・気配を殺しました・・・」

 

そう、能力者マナにとって、隠れている存在を認識するぐらいは
なんということもないのだ。
本来なら虎次郎が偵察に出かけているはずなのだが、
立香が探しに来ているのに気づいた伊織は虎次郎を陽動に出したため、
マナが接近してきたときには、段ボールの中で一人ぼっちだったのである。

 

え？段ボールに隠れていたんならどうしてタッチできたんだって？

 

だから、ＳＣ空間を展開して段ボールをＳＣ空間に取り込まずにおき、
伊織が反応するより先にさわって見せたのである。
マナといえども、この程度の事をやってのけるだけの能力は十分にある。

 

こうして、鬼ごっこは終了した。

 

---

 

「やっほー。みんな帰ってきた？」
「はい、先輩、全員捕まえましたよ」
「うん・・・それで、ゲーム終了はいつなの？」
「ええと・・・午後５時まで！」
「あ、そうなんだシルフィ・・・んじゃ、あと３分だね」
「３分がどうかしたんですか？」
「え？・・・一応はちゃんと時間が終わるまで待たないとね☆」
「先輩は律儀なんですね」
「え？・・うん、律儀って言えば律儀だよ☆」
「あーあ、立香ちゃんとデート出来ると思ったのに・・・」
「お兄ちゃん、ごめんね。シルフィちゃんと右左ちゃん捕まえておけば
　あとはお兄ちゃんがなんとかしてくれると思ったのに」
「マナ姉ってすごいでしょ」
「先輩はもっとすごいですよ」
「・・・・・・・・・・はい、ここまで〜っ」
「あ、もう５時になったんですね」
「うん、５時になったね」
「それじゃ、私たちの大勝利〜♪」
「・・・残念でした。勝ったのはとらちゃん一人だよ☆」
「え〜なんで〜」
「ほら、最初にルールをちゃんと考えずに受けちゃうからこうなるんだよ。
　 『参加者以外の人の手を借りてはいけない』
　それで、伊織んが『虎次郎の手を借りていい』って言ったとき、
　『いいよ』って答えてるでしょ。
　だから、とらちゃんだって参加者だよ」
「さすがにそれはこじつけだろ・・・」
「とらちゃんがディゾナントだから参加者じゃない、っていうんだったら、
　マナはシルフィはどうなるのかな☆」
「えと、それは・・・・」
「はい、決まりね」

 

一瞬で右腕を粉砕骨折させた霰が相手だとどうしても腰が引けてしまう司であった。
そして、幸せと不幸を同時に押しつけられる形になった伊織んと、
一応は目的を果たしたことになった栞んは文句を言わなかった。
え？なぜって、それは・・・

 

「ほら、虎次郎、おまえが勝ったんだって。
　じゃ、誰とデーとしたい？」
「なーお」

 

すりすり

 

「・・・・元飼い主になつきますよね・・・・」
「それだけじゃないかも☆」
「そっかも・・・ここまで見越して姿をくらましてたのかな、虎次郎くん」
「どうなんでしょう☆でも、とらちゃんは賢いねこですよ」
「えっと・・その・・・今の飼い主は・・・その・・・」
「とらちゃんの行きたいところにつきあいますよ。ね、とらちゃん」
「なーお」

 

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霰や虎次郎や司達が帰ったあと、マナとシルフィは校舎の屋上で
夕日を眺めながら語り合っていた。

 

「・・・全く参考にならなかったみたいですね・・・・」
「え〜そんなことないよ。立香ちゃんと小林くんの対決を感じなかった？」
「・・少しは見えたわ・・・」
「とりあえず、挨拶代わりはそれでいいんじゃないかな。
　また機会は作ればいいって☆」
「・・・見えたの・・・」
「そのくらいは出来ないとね、新型だもん☆
　それに私の限界も認識できたし
　マナ姉の力も見せてもらったし、大成功じゃない？」

 

どうやら、シルフィ、遊びまくっていても、
押さえるべき所はきちんと押さえているようである。

 

でも、