品川のあちらこちらに、藍仙高校夏祭りのポスターが張り出された。
むろん掲示の許可は取ってある。部外者を呼び込むのもこのご時世物騒な気がするが、
妙に隔離するより開かれた学校にしたほうがいい、というのが校長の考えなのだ。

「今日はこことここ・・・」

生徒会の支援をやっている二天は今日も部活でポスター貼りである。

「・・・なにごとも、なければいいけどね・・・」

何事もない、とは思ってないらしい。
というのも、時々ポスターが破かれているのだ。
どうやら、藍仙高校、一部では恨まれているらしい。
二天の顔が、厳しく、かつ、楽しそうになる。

「正当防衛で修行が出来そうだ」

 

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そんなこんなで夏祭り当日。
体育館では、伝統のバンド公演が終わった後で、演劇部の出し物が用意されている。
演目はシェークスピアの『真夏の夜の夢』 。らしいといえばらしい出し物だ。

「・・・（くすくす）・・・・合同でやることになるとは思わなかったね」
「なんでこう見境なく演出を頼むんですか」
「きにしない、きにしない。全部CGでやっちゃったら映画が薄っぺらになるのと一緒だよ☆」
「・・・・OBまで呼び込んでるし・・・」
「Don't Mind.芹夏がいないから今回はNo problemね」
「いないからなにか問題がありそうな・・・」
「みんな、準備が出来たら観客席に行ってて。
　あとは霰先輩達と南部さんに頼んでありますから」

 

佳祐くんは「達」であるらしい。
演出の大半は佳祐の頭から出てきているのだが。

むろん、実際に作ったのは霰に安和だからなのだが。

 

「そうそう、観客席に行きますよ」
「・・・ああ、じゃ、またね安和ちゃん」
「・・・（くすくす）・・・かなり短めにしてあるからそんなに長くならないよ・・・」

 

そう、本格的にやるとだれてしまうから、３０分で終わるようにかなり演出がくわえられている。
いたずら好きの妖精パックが妖精の女王に惚れ薬を飲ませてしまうことから
生じる純粋どたばた劇になっているのだ。
登場人物も国王、王妃、パックに従者が一人だけ。
すでに真夏の夜の夢では無くなっているような気がするが気にしないことにしよう。

 

ともかく、エレナと野田と司の３人は舞台のすぐそばの席で観劇することになった。

 

さて、幕が開くと、森の中で妖精達が宴会を開いているところである。
Pixieが宙を舞い、Elfが竪琴を鳴らし、Fairyが踊っている。

（Oh.Fantastic!That like the REALs!)
（竪琴や木なんかは安和さんが作ったんです）
（じゃ、あの空を飛んでる妖精が霰さんの担当か）

 

見事に幻想的な雰囲気が生み出されている。
その中に、妖精の国王夫妻が登場、舞台の上の妖精達は
一斉に王と王妃を拍手で迎える。

 

「苦しゅうない。皆の者、楽しむが良いぞ」
「みなさん、これは陛下からの心ばかりのふるまいです」

 

そう王妃が宣言すると、舞台の下から巨大な酒樽がせり上がってくる。
妖精達が手に手に酒杯をもってその酒をくむ。
やがて国王夫妻にパックが酒をついで持って行く。
・・・・あれ？あのパック役、どう見ても霰だが・・・・。
まあいいや。

 

「では、陛下の健康と麗しき夏の夜に乾杯」
『かんぱーい』

一斉に酒杯を空ける妖精達。もちろん中身はアルコール飲料などではなく
ただのグレープジュースである。

 

再び何事もなかったかのように宴会が再開する。
国王は舞台を横切って長老のような扮装をした妖精と話ている。
王妃役はその場ですこし腰掛けて休んでる。
パックはとっくに姿を消した。

 

やがて、王妃が放心状態で立ち上がる。
足下がおぼつかないのに気がついた一人の妖精が王妃を支えに行く。

「女王様、大丈夫ですか」
「だーいじょーぶ。大丈夫。大丈夫。・・・ところで、あなた」
「はい、なんでしょう」
「今宵は無礼講です」
「はい、まったくで」
「堅苦しい肩書きははずしましょう」
「はい、それがよろしいでしょう」
「・・・ ちょ、ちょっと陛下、陛下・・・」
「陛下、はやめるようにといったでしょ〜♪」

 

王妃の雰囲気が怪しいのに気づいて逃げ出す従者。
しばらく従者を王妃が追いかけているが王妃は
木の根に足をひっかけて転げてしまう。
その隙に舞台から姿を消してしまう従者。

しばらく、王妃は当たりをきょろきょろと見回すと・・・

 

「あ、あなた、今宵は無礼講でしょ」

まっすぐ野田の方へと近づいてくる。

「えっ」

 

身の危険を感じる野田。王妃役がじっと情熱的な瞳でこちらを見つめてるのだ。
ふと思い出す。霰に佳祐といえば、第二科学部の悪名をとどろかせた先輩達。
とてつもない悪ふざけを平然とやることで有名だった。

背中を冷や汗がつたう。・・・本気で、ほれ薬を飲ませるぐらいやりかねない。

 

「わ、わ、わ〜」

 

訳のわからないことをわめきながら出口目がけて走り出そうとする野田。

 

「なんで急に逃げるのよ〜」

 

野田の動きに反応して舞台から飛び降りる王妃。
パニックになりながら出口へ目がけて走るが気がつくと反対側の通路を
舞台目がけて走っている。王妃もまっすぐ野田を追いかけているはずだが
なぜか観客席をぐるぐると巡る。・・・どうやら、霰の演出らしい。
空間がねじ曲がっていてまっすぐ走るとぐるぐると観客席を走ることになるのだ。

 

恐怖に駆られた野田はとっさに預けられていたディゾナントを王妃に向かって突撃させる。
突如として現れた巨神兵もどきに見ている方は大喜びだ。
が、巨神兵もどき、ということはつまり、出来損ないということであって、
王妃に向かって攻撃を仕掛けようとしている間、すでにぼろぼろと腐っていく。

「女性に手を挙げようとするとは言語道断」

 

王妃をまもるべくいつのまにか正義の格闘家が登場している−もちろん、司だ。
司と巨神兵もどきの対決が始まる。みんなはやんややんやと大喝采。

 

しかし、霰が改造したオーギュメントと、野田の本国で作ったディゾナントでは勝負にならない。
司の少林寺拳法が次々と巨神兵もどきに打撃を与える。
あれ？一撃で崩壊しておかしくないはずだが・・・ああ、どうやらだれかが密かに回復しているらしい。
なんとなく緊迫した戦闘になったが、最後にはもちろん正義が勝つ。

「よくぞ魔物を退治してくれました。礼を言います」
「いえ、お礼には及びませんよ」
「いやいや、謙遜するでないぞ」

 

気がつくとなぜか妖精の王様や妖精達が司を中心に取り囲んでいる。

 

「さあ、勇者をたたえようぞ」

 

こうして、少林寺拳法の使い手の勇者は妖精の国王の娘と無理矢理結婚させられましたとさ。

 

 

元々のストーリーからさえかけ離れている様な気がするが、誰も気にしてないようだ。
え？国王の娘の役はだれなのかって？・・・さあ、だれなんでしょうね？

 

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そのころ、 刈麻　真はぶらぶらと校庭を歩いていた。
中心にはキャンプファイヤー用に薪が積み上げられている。
その回りを取り囲むように屋台が出ている。
なぜか浴衣姿で歩く女子生徒が目につく。・・・あ、あんなところで浴衣の貸し出しをやってる。
夏祭りに浴衣とは風情が・・・

 

「おい」

 

刈麻の肩に後ろから手を置く不良。片手をポケットにつっこんでいる。
が、この人物根本的に打つ手を間違えていた。真は手の置き方から
不良の位置と体格を悟って、振り向きざまに殴り飛ばしていたのだから。

 

「・・・過剰防衛だろう」
「ん？俺は素手、向こうはナイフを使うつもりだった。正当防衛と言ってほしい」
「ナイフを持っていたか？」
「ポケットを見てみろ」

 

言われた通り、二天がポケットの中をしらべると、はたして、

 

「アーミーナイフ・・・」
「そういうことだ」
「一体どうして・・・」

 

そこまで言ったとき、二天も怪しい気配を感じていた。
どうやらこれの仲間が集まってきたらしい。

 

「・・・校内で騒ぎを起こさないように」
「やかましい。お客になんて・・・」

すでに金属バットや角材で武装している相手になんの同情が必要だろうか。
二天もすぐに木刀で不良を殴り倒す。
しばらくして、不良達は全員叩きのめされていた。
・・・そして、そのとき、すでに刈麻の姿も消えていた。
どうやら、やるだけやって逃げ出したらしい。

 

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さて、徐々に日が暮れてくる。
そんな中、夏祭りに段々ＯＢも集まってくる。
そろそろキャンプファイヤーが始まるのだ。

 

「なあ姫。たまにはこういうのもいいだろ」
「まあ、息抜きがしたいって言うからついてきたけど。それにしてもすごい人混みね」
「まあな。お、姫姫。リンゴアメくおーぜ」
「見かけによらず甘い物好きなのね・・・」

 

リンゴ飴の屋台に向かうのは、前生徒会長麻生霧人と、そのまた先代の生徒会長二条院真理。
その二人が屋台にたどり着いて目にした物は・・・

 

「柊〜、あんたいつまでくってるのよ」
「ん、せっかくいろんな種類があるんだぜ。
　全部喰わなきゃ来たかいがないだろ」

 

そう、ＳＣ空間の食欲魔神、柊誠志郎が屋台を食い倒している最中であった。
とりあえず犠牲になっているのは、焼きそばやのようだ。
誠志郎以外にもお客がいるので作る童も売る徹もてんてこ舞いである。

 

「おーい、たこ焼きまだか〜」
「柊、あんたお金持ってるの？」
「そりゃ一応アルバイトぐらいしてるからな」
「してるからって、一体何人前食べたと思ってるのよ」
「ん、一食２００円だろ。まだ２０食しかくってないから余裕あるぞ」
「柊〜、そんな一人で食い倒すんじゃないわよ。この子達迷惑してるでしょ」
「あ、あの、名城先輩、迷惑・・・じゃないです」
「はい、柊先輩に美味しそうに食べてもらってますから、お客さんも来てくれてますし」
「まあ、そういう言い方もあるわね」

「な〜お」

そう言っている最中に、猫がたこ焼きをいれた発泡スチロールのトレイをを頭にのっけて柊の腕に乗る
もちろんこの猫ただ者ではない、虎次郎だ。

「おっ。タコやきたこ焼き・・・なあ、名城も食えよ。
　こんどはピーナッツが入ってたぜ」
「すでにタコやきじゃないじゃない」
「まーまー堅いこといいっこなし」
「あんたが柔らかすぎっ！」
「くわんのか？」
「あんた箸独占してるじゃない」
「はい、あーん」
（ぱく）
「ありがと」

 

なんのかんのと言いつつ、カップルぶりを見せつけている二人であった。
まあ、この点、姫と霧人もあまりかわらないが。

 

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「な〜ぉ」
「どうした虎次郎？」

 

虎次郎の飼い主、水橋　伊織の袖を虎次郎がくわえて引っ張る。
その虎次郎が見せようとする先にあるものは・・・

 

「げっ。栞・・・・」
「に〜ぃ」
「そうだな、虎次郎・・・これにてびっくりたこ焼きはおしまい。
　さらばっ」

「待って、お兄ちゃん！」

 

たたたたたたたたたたたた〜。

全力疾走で逃げる伊織、これまた全力疾走で追いかける栞。
もっとも伊織より栞の方がはるかに足が速い、このままでは追いつかれる・・・・。

 

「どうした姫」

「な、なんなの、あれ？」

 

そう、しばらく真理は常識が通用する世界にいたために
この学校の常識の方を忘れてしまっていた。
飼い主＝伊織の危機を救うべく、虎次郎は虎に変身すると伊織を乗せて逃げ出したのだ。

 

そのまま、二人は校門の外へ出て・・・・見えなくなった。

 

「姫、何してる？」
「じいに電話してるのよ。ほっといたらパニックになるでしょ。
　全国ニュースになっても迷惑だわ」

 

この日、品川で虎を見た、というニュースが全くでなかったのは
真理ぃの機転のおかげであることを知る人は少ない。

 

「お〜い、焼きそばまだか〜」
「あんたなに考えてるのよ。もう全部食べちゃったじゃない」
「 あ、そうか？」

 

そう、気がついたら誠志郎は屋台を食いつぶしてしまっていた。
いや、もう屋台は撤収しつつある。というのも日が落ちたので
今からダンスパーティの開幕なのだ。

「・・・・なんか物足りないぞ」
「食い足りないって・・・」
「というわけだ、満腹したら払うからもう少し何かだしてくれないかな」

 

出してくれ、といわれても、もう何も残ってない。

 

「そこをなんとか、な」
「柊、いい加減にしなさいよ。・・・ほら、あそこまだやってるとこあるわよ」
「ん？そうか。じゃ、またな」

 

後輩相手にくいにげすな〜！

 

「こら、柊・・・・あ、ごめんね。いくらになった？・・・・いいわよ。あたしがはらっとくから。
　って、・・・一万円！・・・柊〜、後で覚えてなさいよ〜」

 

こうして、柊の魔の胃袋から童と徹は解放された。
こんな事もあろうかと準備していた月夜の方は悲劇を味わっていた、
ということを知ったのは夏祭りが完全に終わった後である。