「先輩、頼みがあるんですけど・・・」

 

ここは、お台場大学のキャンパス。
新入生刈麻真が、第二科学部のＯＢに話を持ちかけている。

 

「あ、おもしろそ、私もくわえて（あは）」

 

乱入してきたのは霰、同じくお台場大学の新入生だ。

 

「霰さんはオーギュメントを持ってないでしょう？
　私はオーギュメント使いの方が必要なんです」
「ぶぅ・・・」

 

オーギュメントを配りまくってた霰も、自分が持ってるオーギュメントは
少しも戦闘用ではない。単にＳＣ空間で自分自身を維持するだけの護身用だ。
第一、本性を暴露していいわけがない。

 

「・・・オーギュメントって、そういう使い方するものじゃないと思うの」
「まーまー、Ｐ−３、おもちゃには違いないって。
　そういう使い方の方が俺は建設的だと思うぜ」
「誠志郎くんのはおもちゃとも言えないよ」
「ん？ああ、でも今は刈麻の持ってる奴のほうが性能上だろ。
　どっちにせよおもちゃじゃないか」
「・・・俺はなにも持ってないがな」
「トーヤくんにはＰ−３がいるじゃない」

 

霰のこの一言で霞（Ｐ−３）は照れ、十夜は当惑し、他の一同は笑う。
場が和んだところで、再び話題は刈麻の依頼の方へ戻っていく。

 

「ま、俺はべつにかまわないぜ、ちゃんと報酬はあるんだろ？」
「柊ぃ、あんまり後輩にたかるものじゃないでしょ」
「快くでもないですよ」
「だからって後輩の頼みをむげにもできないだろ」
「ま、いっか。じゃあたしと柊が参加したげる」
「ありがとう」

 

顔で笑って心で泣いて。
いつもながら、今回も多大な出費を強いられそうな真であった。

 

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そういうわけで、今日は入学式から一日経った学校説明の日。
入学したからすぐ授業という訳にもいかない。
中学と高校では学校としての考え方が根本から違うのだ。

 

なにより、中学校までは義務教育だが、高校以上は選択教育。
それも私立高校とくれば学ぶ気のない生徒を無理矢理学ばせる義務はない。
自発的に学ぼうとする者には惜しみない援助があるが、
学ぶ気のない者は無理強いしてでも学ばせるのではなく、
それ以外の進路へと誘導する。
ある意味これぐらい楽なことはなく、ある意味これほど厳しいことはない。

 

あれ？校門で生徒会が何か配ってる。なにをしてるんだろう？

 

「とにかく、一人一枚渡していこうよ」
「だな。あ、生徒会からのかわらばんだよ」
「アリス・・・瓦版じゃないよ・・・」

 

アリスのボケが功を奏したから、おもしろ半分に寄っていく人がビラを貰いはじめた。

 

「おかしなものだね。普通執行部っていのは生徒会のことじゃないのかな？」

 

おかしいのはおまえの方だ。と言いたくなるような生徒が話しかけてきた。
何がおかしいって、制服のスカートに木刀を二本差しなのがおかしい。
よくそんなので許可になったな、と言いたいところであるが
藍仙高校は自由な校風で有名である。
十夜達が通っていた頃はオーギュメントの持ち込みが許可になっていたぐらいだ。
きっと、同じようになにか特殊な事情があるのだろう。

 

「放送部や図書部みたいに、学校運営を手伝う部活動があるように、
　こんど執行部を設立することにしたんだよ。
　良かったら入ってね。」
「わかった。なるほど、話に聞いたとおり不思議な学校だ。
　それがしに向いた部活動が無ければ入らせてもらおう」

 

執行部なら剣術を用いる場合があるかもしれない。
そう思う宮本二天であった。

 

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さて、午前中は教室内で校内や授業のやり方について説明を受けた生徒達。
部活動の勧誘演説会は午後からだ。
今はその中間、昼休み。

 

「あたし、演舞ぐらいしかやったこと無いけどなぁ」

ダンス部の部員に迫られているのは朝比奈冬華。剣道部員である。
なぜ剣道部の冬華がダンス部の部員に迫られているのか。
この学校では部活動の掛け持ちが無制限に認められている。
正しくは、入部が許可されれば誰でも部員になれる。
ダンスの好きな冬華は、剣道部員であると同時にダンス部の部員でもあるのだ。

「いいからいいから。結構有名なんだってダンサー朝比奈は」
「はいはい」

 

渋々、パフォーマンスをはじめる冬華。
でもまんざらでもなかったりする。
腕前は一流。なにしろストリートでは知らなければモグリというほどの有名人である。

 

いつの間にか校庭には人だかりが出来ていた。

 

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その同じ校庭の反対側に、一人の新入生がナンパをを仕掛けていた。

 

「ね、だからさあ・・・」
「そんな調子なら、どうせ他の部にも入るんだろ。
　野球はそんなに甘くないよ」
「そんなに熱くならなくても大丈夫だって。
　こう見えてもやるときにはやるんだぜ」
「ただでさえ掛け持ち部員が多すぎて試合にならないんだよ。
　３年生が卒業しちゃって今部員が８人しかいないんだ。
　試合の日に抜けられたら本当に迷惑なんだよ」

 

そう、藍仙高校の部活動はまさにピンからキリまである。
インターハイ上位が指定席という優秀な部もあれば、
野球部のように掛け持ち部員でようやく定数を満たしている
弱体な部もあるのだ。
確かに、野球が好きなら藍仙高校よりましな学校はいくらでもあるだろう

 

「だったらなおさら部員がいるだろ。ね。」
「・・・・わかった、君、ポジションはどこなの？」
「ピッチャーだよ」
「ああ、じゃ、ボクを打ち取ったら入部を許可して上げる」
「えと、１つ聞いていい？」
「なに？」
「マネージャ・・・だよね？」
「マネージャー兼部長だよ。まだ２年だけど、３年は受験があるから
　部長の仕事までしていられないんだ」
「選手なの？」
「こう見えてもエースで四番」
「ええと・・」
「質問はそこまで。聞きたいことはわかるけど、ボクを打ち取れたら教えて上げる」
「わかったよ。じゃ、手加減無しで行くよ」
「望むところ」

 

ナンパ師の新入生、小林司はこうして野球部の新キャプテン、
三原由樹と対決することになった。

 

見かけはナンパでも、やるときにはやる、という司の言葉に嘘は無かった。
中学生離れした速球に由樹は度肝を抜かれる。
バットを一握り短く持ち直して打つが、タイミングは合ったのものバックネットへのファール。
三球目は見事なチェンジアップに空振りしてしまった。

 

「・・・約束だから入部を許可して上げるよ。
　でも、運動部の掛け持ちは止めてくれ。大抵試合が重なるんだ」
「Ｏ．Ｋ．それはかまわないよ。実はもう二つ入部を約束しちゃってて
　野球部で終わりにしようと思ってたんだ」
「二つも入ったって、どことどこ？」
「第一科学部と第二科学部」
「・・・・・・・大変な所に入ったね」
「そう？女の子が一杯で楽しそうなとこだったよ」
「（はあ）今にわかるよ」

 

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そんなこんなで午後の部活動説明会である。
くじ引きで決まった順番に、正規の部活動が解説を行う。
部員５人未満の同好会は部活動の宣伝を今行うことは出来ない。
おかげで執行部も放送部も新聞部も排除されているのである。

 

さて、次は第二科学部の番だ。
スピーチをするのは氷川徹、人前に出るのは苦手ならしく、がちがちに緊張している。

「えっと…第二科学部は…普通の科学では考えないものを研究してたりしてます…。あ…でもそんなに難しく考える必要はないと思います。えと…」

 

ここで少し考える。

『…ここにいるみんなは、オーギュメントとか持ってないはず…オーギュメント起動して、ＳＣ空間作っちゃったら、危険かも…』

 

「あの…興味を持った人は、第二科学部の部室まで見学してってください。」

 

そして一礼しながら一言言おうとしたとき、事件は起きた。

 

「だれか〜っ、助けて〜っ」
「な、何事だ？」

いきなり体育館の照明が落ちると、あるはずのないスポットライトが体育館の右上の通路を照らす。

 

「ふははははは、我が名は暗黒大魔神。この新入生を助けたくばここまで来てみろ」

 

仮面を付けた悪漢二人組が、女子生徒を抱きかかえて仁王立ちになっている。
しかし、仮面を付けた片一方が刈麻なのは、学食の利用者には声でバレバレである。

（なあ名城、おまえ新入生ってな無理がありすぎるだろ）
（いいじゃない柊、やってみたかったんだから）

 

そう、抱きかかえられている”新入生”は名城瞳で抱きかかえているのは誠志郎。
こちらはさすがに伝説の先輩とはいえ直接見た者がいないから生徒にはわからないが
教師にはバレバレ・・・

 

「暗黒大魔神、勝負だ」
「あ、あの、比良坂先輩・・・」

 

壇上の徹が声を掛けるがもうすでに月夜は聞いてない。
オーギュメントがどういうものかみせる好機を逃す気はないのだ。

 

「思った通りだわ！第二科学部が問題を起こさないわけがないのよ！」
「あ、あの、僕たちは無関係・・・」
「そうですよ。あんな暗黒大魔神など知りません」

 

（なあ名城、あれ月夜の奴本気で言ってるのか？）
（えっとね・・・本気みたい）
（おぃ）

 

『ＳＣ空間を確認、オーギュメントを起動します』

 

オーギュメントの無機質な声が体育館に響く。

 

「あの、止めて・・」
「氷川、やらせておけ」
「え、あの、佐伯先生・・・」

（名城、聞こえてるな。館内の生徒を定位しろ）
（まったく、人使いあらいよぉ）
（おまえ達が自分で始めたことだろう。責任持つんだな）
（は〜い。・・・・柊ぃ。あとでおごんなさいよ）
（ん、ああ、刈麻がおごってくれるって）
（・・・しくしく・・）

 

ま、自業自得であろう。
それはともかく、名城が全力で体育館内部を定位させる。
体育館内部の生徒一同は、金縛り状態になっているとはいえ、
ＳＣ空間内で自分自身を不確定な波として漂うことなく存在していられた。
その中をオーギュメント使い＝DeviceReignが駆けていく。

 

「ふ、愚か者め。これでも食らえ！」

 

誠志郎、じゃなくて、暗黒魔神のカレイドフェノムが月夜を襲う。

 

「なんの、負けるか！」

 

回復能力で打撃に耐えながら階段を駆け上がる。

「待ちなさい！二人とも許さないわよ！」

 

第一科学部の芹夏がその後ろを追う。
ちなみに、他のオーギュメント使いは授業中なのでこの場にはいない。
あといるのは佐伯先生と徹、そして・・・。

 

「みなさん、がんばってくださいね」

 

いつの間にか事情を全部察してしまった＝佐伯先生と瞳の会話を感じ取ったのだ＝
新入生の桂立香、そして、

 

「なるほど、オーギュメントとはああいう使い方をするのか」

 

入学前に霰と騒動を起こした縁でオーギュメントを持っている二天ぐらいである。

 

他の新入生は暗黒大魔王と月夜、そして暗黒魔神と芹夏のぶつかり合いをはらはらしながら見ている。
戦いは一進一退。どちらかが勝ちそうになるとある人物がシールドを回復させているから
いつまで経っても勝負がつかない。

 

（霰、いつの間に来てたの？）
（あは、ばれちゃった？）
（普通ばれるわよ。あれだけ露骨に介入したら）
（え〜体育館の外から回復してるだけだよぉ）
（それが露骨だっていうの。正体ばれる前にやめてよ）
（は〜い。でもそろそろ頃合いだよ☆）
（うん、柊、そろそろ潮時だって）
（よし、じゃ、まけよっか）

 

「うわぁ」

 

話が一致すると、暗黒魔神＝誠志郎が芹夏のカレイドフェノムを受けてＳＣ空間からはじきだされる。

その瞬間、名城はＳＣ空間を解除すると３人はさっさと体育館から逃げ出した。

 

後には、芹夏と月夜が残るばかり。

 

「・・・なるほど、大変な事になりそうだこりゃ」

 

そうだろ司。

 

「立香ちゃんに芹夏先輩、どっちの味方をすればいいんだろう」

 

おぃ