「あの・・佐伯先生は・・どちらでしょうか？」

 

ここは、藍仙高校の受付。
入試も終わり、合格発表を待つばかりの氷川　徹は、江川（ごうのかわ、と読む）来人 という
新聞部の先輩からの頼まれごとを片づけるために藍仙高校に来ていた。

　まあ、出会った理由というのが、単純に合格通知の電報打ちをする、という
来人の部費稼ぎであったあたりは、来人らしいといえる。
だいたいが合格電報なんて大学でやるものだろ。というつっこみがあるだろうが、
校風が大学的なのも藍仙高校の特徴だ

 

「佐伯先生？ああ、保健室にいると思うよ、案内図はそこにある」
「ありがとう・・ございます」

 

礼儀正しく一礼すると、徹は案内図通りに保健室へと向かった。

 

こんこん

 

「失礼します」
「ああ、入れ」

 

部屋の中には、どことなく人を寄せ付けない雰囲気のある校医が一人。

 

「あ、あの・・来人先輩からの伝言なんですが・・」

 

要するに、新宿での簡易ディゾナント狩りに加勢してほしい、という話なのだが…

 

「・・・あいつも心配性だな。 わかった、すぐに手を打っておこう。
　おまえもご苦労だな」
「い、いえ・・・」
「せっかくだからすこしゆっくりしていくといい。
　コーヒーでも飲むか」
「・・あ、はい・・頂きます」

 

人の好意を無にしては悪いだろう。
こうして、徹は、砂糖水に色が付いたようなコーヒーをごちそうになった。

 

さて、場面は変わってここは新宿。
結局来ているのは

 

「 これだけで大丈夫なんですか？」
すこし不安そうな刈麻くんに
「俺は別の意味で不安なんだがな」
あまり乗り気でない佳祐君、そして
「二人とも気にしすぎだって、ノープロブレム、しょせんは雑魚だって」
不安な二人をそっちのけにして、ひたすらうれしがっている霰の３人だけ。

 

「その自信はどこから出てくるんだか・・」
「いざとなったら強い味方が付いてるんだよ」
「そんな状況になってほしくありませんよ」
「・・君たち、ここは高校生が来るような場所じゃない」
「・・・だれです、あなた？」

 

全身黒ずくめの服装にサングラス。やのつく職業っぽい雰囲気のあるおっさんに
３人は声を掛けられた 。

 

「壬生のおじちゃんはどうしたの？」
「壬生さんは事務所だ。私は伝言を伝えに来た」
「見つかったの？」
「見つかった、手出しはするなと言われている」
「………Ｏ．Ｋ．じゃ、そこへ行くね☆」
「私はまだなにも・・」
「気にしない気にしない、ノープロブレム、ケセラセラ、こっちで合ってるでしょ？」
「あ、ああ・・」

 

あっけにとられる黒づくめの男。
あっけにとられているのは残りの２人も同じである、が、

「ほらほら、二人ともぼんやりしないで」

霰に手を引かれて歌舞伎町の怪しげな通りへと連れ込まれてしまったのである。

 

「・・・お兄さん達、まっすぐここに来たなら話は早いね」

 

確かに話は早かった。
捜していた薬の売人が向こうから声を掛けてきたのだから。
どうやら、売人から薬を買っている生徒は一人や二人ではなく、
その筋では有名だったらしい。

 

「一錠１０００円、いくついるかい？」
「・・・え〜たっかいよぉ。１００円に負けて」

 

霰だけは緊迫感がない。

 

「っていうか、あれ本当にコアブレインがはいってるのか？」
「コアブレイン？なんですか？それは・・・」
「・・・っていうか、あなた目が赤いですね。徹夜でもしたんですか？」
「お、おれは薬なんてくすねてねえぞっ！」
「語るに落ちてどうするんですか」

 

ほんとうに、語るに落ちてどうするのだろう。

 

「それ全部コアブレイン入りでしょ。
　ついでに、そのポケットの中に護身用のディゾナント。
　結構いい装備してるね☆」

「・・・おまえらオーギュメント使いだな！」
「オーギュメントのことを知ってるのか！」

 

次の瞬間、ＳＣ空間が展開された。
売人も、売人が持っていた薬もディゾナントとして登場する。
その数十数体。

「出たな宝石っ！」
「おまえ性格変わってるだろ・・」
「二人ともがんばれ〜っ」

 

全然緊迫感のない霰の声援を受けて戦う二人。
もっとも、緊迫感がないには理由があった。

 

「でりゃ」

 

刈麻が全員を足止めすべく突撃を掛ける一方、
佳祐は冷静に間合いを取って範囲攻撃をかける。

 

だが、その一撃で敵は片づいてしまった。

 

「よ、弱すぎる」
「なあ、このオーパスっていうのは全部もらっていいか？」
「べつにかまわないが」
「よし、じゃこれ売りに行こう」
「売人はどうする？」
「縛って警察にでも突き出せば・・」
「それには及ばない」
「だれだ、あんた」
「あ、壬生のおじちゃん。わざわざご苦労様」

 

無理矢理呼びつけたくせに、とはいえない壬生パパであった。
たちまちカスミ達には恩があるし、霰に暴れられたくもない。

 

「こいつはうちで処理させてもらおう。
　そこのオーパスも渡してもらおうか」
「なんだよ、俺たちが拾ったんだぜ、なあ」
「しかし、売るつもりなのだろう？」
「もちろん」
「一つ３０００円で買う。」
「三千円？安すぎないか、おっさん」
「ならまあいい、自分で売りに行ってみるんだな」

 

そのあまりにも素っ気ない言い方が、逆に刈麻を不安にさせた。

 

「わ、わかったよ、ほい、全部で１２個あるから３６ｋな」
「いいだろう」

 

こうして、ひとまず彼らにとって、問題は片づいた。

 

しかし・・・

 

「・・・全く相手にもならなかったみたいだな」
「申し訳ありません長官、想定した以上に敵は強力だったようで・・」
「いい、この段階でそれが判明しただけでも収穫だ。
　研究員を二倍に増員しよう。遅れはなんとしても取り戻さなければならない」
「は、はい」

 

彼らもまたこの結果からさらなる研究意欲を増したらしい。
それは同時に新たなる事件が藍仙高校に起きると言うことなのだが・・・