夏も盛り、藍仙高校では様々な部活が夏合宿を進めている。

たとえば、弓道部なんかはこんな合宿をやっていた。

「よ〜し、動くなよ」
「ま、衛先輩・・・大丈夫なんですか？」
「いいからちゃんと目隠ししてろ・・・いくぞ」
ひゅん・・・。
犠牲者・・もとい、弓道部部員井村は、 天瀬衛の冗談みたいな練習につきあわされていた。
運動部は上下が厳しいとはいえ、これはあんまりだと言えるかも知れない。
「せ、先輩・・・外れてないです？」
額に何かが張り付いたのを感じ、おもわず目隠しを取ってなにが飛んできたか確認する井村。
「こら、動くな、動くから狙いがそれたただろうが」
「伸び上がった訳じゃないですよ」
額に吸盤付きの矢を張り付けたまま講義する井村。
「ちゃんとウィリアム・テルみたいに決めてやるって。
　さてと・・・次はなにを使おうかな」
まったく聞いていない衛。

「うぅ・・・早くまともな練習がしたい・・・」
彼の不幸は始まったばかりだ。

もちろん、こういう不幸な人ばかりでもない。

たとえば、軽音楽部なんかも合宿をやっている。
軽音楽部が合宿をする意味があるのか？と言えば、
きっと、それが楽しいから、というのが答えになるのだろう。

「 よし、終わった。・・と、冬華、おまえなに勝手に踊ってたんだよ」
「え？今夜のダンスパーティの練習してたんよ」
「ダンスパーティ？そんな企画があるのか」
「そ、ちゃんと生徒会の許可も得てあるんよ。
　しらへんかったん？霧人も役員やろ？」
「部活で忙しかったんだよ。今日は警備だから遊ぶ訳にもいかないしな」
「そうなの。また霧人のことだから一番に来るかとおもうたのに」
「俺はやるべき事はちゃんとやる」
「はいはい、そういうことにしとくわ。
　あ、やべ、早くいかんと部長に怒られるわ」

そう、今日は各部活の合宿最終日、例年通り、合宿の最後には打ち上げの後夜祭が行われる。

文化祭とはまた違うのだが、お祭り好きは藍仙高校の伝統だ。

そして、伝統とは違うこんなイベントも用意されていた。

「あ〜あ〜、ただいまマイクのテスト中・・・、来人、入ってる？」
「うん、ちゃんと機器は正常なんだよ」
「よし、じゃ、本番行くよ」
「メインスイッチを入れるんだよ」
「はーい、みんな元気に合宿やってる？こちらは藍仙高校放送部のDigital Princess
　亜玖亜だよ。
　こんばんは男女ペア限定のきもだめし大会があるからね。
　あの第二科学部がいろんな仕掛けを用意して待ってるって。
　相手がいない場合はちゃんとその場で振り分けるから心配しなくていいことはお墨付き。
　さ、一夏の思い出がなにもなしじゃ寂しいでしょ？
　そう思うならきもだめしへＧＯ！」

てなわけで、場面は変わってきもだめし大会。
「姫っち、俺の仕事は見回りだよな」
「麻生くん、なにが言いたいの？」
「もちろん、第二科学部は見回りの対象だよな」
「でも、きもだめしは男女ペアでないと参加できないんだよな。
　生徒会の権限で入るなんて言ってイメージ崩すのも悪いだろ」

霧人も経験上理詰めで行くのが二条院真理に効果的な事を知っている。

「なにが言いたいんです」
「悪いけど、おれと一緒に回ってくれないか？」
「ええいいわ。そんなことならなにも遠回しに言わなくていいわよ」
「よし、決まりだな」

明らかに不服そうな顔をしている”霧人ファン”の女子生徒の姿は
もちろん生徒会長の目には入らない。
たとえ目に入ったとしても、自分が見回りに来るのが面白くないのだろうと
思うぐらいだろう。

そうかと思えば、まったく別の理由できもだめしに参加する人たちもいる。

「ねえ、集中力を養う方法ををそろそろ教えてよ」

「・・・・これに参加してみるといいでしょう・・・・」

会話しているのはＰ−４と柳瀬優美。
最近優美は集中力が無くてスランプ気味なのだ。
なんでも来人に年下だと思われたのがひどくショックであったらしい。
確かに、小学生で通る来人に年下呼ばわりされれば、ただでさえ
童顔を気にしている優美の心は傷つくだろう。

「・・・・集中力とは・・・・雑念を払う事なのです・・・」
「具体的に教えてくれないとわからないよ」
「・・・ですから・・・これに参加すれば分かるでしょう・・・」
「でも、私パートナーいないし」
「・・・心配ありません・・・・もう用意してあります・・・・ 」
「用意してあるって？」
「それで、この勝負に勝ったら部室を明け渡すという約束は本当だろうな」
「私は嘘を言わないよ、Ｐ−４が驚いて、君たちが驚かないことがあったなら、
　約束通り部室を交換しよう。」
「よし、男に二言はないな」
「部長、挑発に乗らない方がいいと思いますけどね」
「負けたからと言って失う物はない、さあ行くぞ！」
「はいはい・・・で、私はこちらの方と一緒に行けばいいんですね」
「うん、えと・・」
「私は科学部の金川、こちらが部長の銀山です」
「・・・・よろしく・・・」
「ああ、こちらこそ」

例によって、こういうときには絶対に顔を出す霰が全体進行だ。

「さあ、みんな準備はいいかな？
　この夏の暑さを吹き飛ばすきもだめし大会の始まり始まり・・・Ready…GO!」

かけ声と共に、参加者の回りを、突然現れたゾンビが取り囲む。
ゾンビ共は不気味な姿をさらしながら、じわじわと参加者を校舎へと追い込んでいく。
「わ〜」「きゃ〜」「助けてくれ〜」

ほとんどパニックになって校舎へと逃げ込む生徒達。
「だらしないなあ。これは序の口なのに」
「うわっ、びっくりしたぁ」
「・・・・それほど驚いてないようですね・・・」
「この程度でいちいち驚いていられませんよ、あれ、部長？」
「な、な、な・・・」
「・・・・もうリタイアですか・・・・」
「だから勝負しない方がいいって言ったのに」
「あ、あとは任せた金川・・・」
「部長、そういえば会長と麻生先輩はもう先に行きましたよ」
「な、なんだと、・・・急がないと」
「・・・・分かりますか柳瀬さん・・・これが集中力というものですよ・・・」
「ただの焼き餅にしか見えないけど」
「・・・・・・それも集中力の一つです・・・・」

まあ、こんな調子のきもだめしである。
なにしろディゾナントを使ったり、イデア情報を書き換えた異次元空間を使っての
きもだめしだから迫力は満点。あちらこちらで腰を抜かして歩けなくなった男子生徒や
金切り声を上げてパニックに陥っている女子生徒見受けられる。
そんな中、優美と金川組は順調に踏破していった。

「部長はああでしたが、私はこんなものでは驚きません。
　しょせんは作り物じゃありませんか」
「私も驚かないよ、なんとなく、分かってきたんだ」

いよいよきもだめしも大詰め、最後の難関らしき場所にやってくる。

「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、世紀の大発見、六尺オオイタチだよ」
「こんなところで落語をやってどうするんです？
　どうせ六尺大板血なんて言い出すんでしょう」
「旦那、うちは良心的なお化け屋敷ですぜ」
「ディゾナントの大群に襲わせるお化け屋敷のどこが良心的なんだか」
「ディゾナントなんてお化けみたいなもんだろ・・・いてっ」

空間を超越して誰かが空き缶を投げつけてきたらしい。
どこから、誰がぶつけてきたのか？なんてことは考える必要はない。
どうせこんな事をするのは一人しかいないのだし。

「ま、とにかく、こんなことでずっこけさせようったって無駄ですからね」
「そうそう無駄無駄〜」
・・・・・・

「どわあ」
金川が腰をぬかした。それはそうだろう。
正真正銘六尺の図体を持つ巨大オオイタチが襲いかかってきたのだ。

『使用者の意志を確認。ＳＣ空間を展開します』
量産型オーギュメントの言葉が終わるか終わらないかの内にＳＣ空間が展開されると、
粗雑な量産型ディゾナントに過ぎないオオイタチは優美のThrough arrowに撃破されていた。
「な、な、な・・」
「金川先輩、今自分がするべき事に集中する。簡単なことでしょ」

優美は腰を抜かした金川行博を引きずって先へと進んでいった。

なお、真理と霧人は平然と見回りを済ませたことは言うまでもない。

「・・・・（くすくす）・・・・設置は終わったよ・・・」

「サンキュ、キャンプファイヤーはこれでよし、と。
　アンプのセッティングも問題ないわね？」
「問題なし、それにしてもなんで後夜祭でダンスする事になったんだ？
　元は体育館でのダンスイベントだったろ？」
「しかたないでしょ。生徒会が出した条件が全生徒が参加できることだったのよ」
「まあ、仕方ないか、出来ないよりは出来た方がいいし」
「そういうことや」

「姫っち、これも当然見回りの対象だよな」
「・・・・姫っち、という呼び方はやめてくれないかしら」
「じゃ、姫、これも見回るんだろ」
「・・・私、ロック系の音楽は好きじゃないわ。
　これはあなただけで見回ってちょうだい」
「ロックじゃないぜ、許可を出すときに俺が少し条件を付け加えておいた。
　ロック無し、全員参加可能ってね」
「・・・・」

こう出られると、なにも言い返せない。
落ち度はまるきりないのだ。

♪お〜おお、さあ輪になっておどろ。らんらららんらんら〜ん、夢を叶えるーよ♪

長野冬季オリンピックの最後に流れた音楽が校内を満たしていく。
確かに、全員が踊れる曲、誰でも踊りの輪に入れる曲に違いない。

あっちでは、冬華が鍛え上げた踊りの腕を披露している。
かと思えば、霰は踊りと言うよりむしろ曲芸に近い技を連発している。
銀山に金川もしらけた顔なんてしてない、亜玖亜に踊りの輪へひっぱり込まれた。
もちろん衛がこんな楽しい事を見逃すはずもない。

今は祭の夜、 特別な空間。