ここは、藍仙高校物理教室。
他の生徒が部活をしている最中ずっと罠作りに精を出していた
衛は、他の生徒が一通り居なくなった時間を見計らって、罠設置へと出かけていった。

「簡易罠完成！では、仕掛けてくるな！」
「おい、護衛はどうするんだ？」
「じょぶじょぶ、すぐに帰ってくるって」
「本当か・・」
「ちょろっと設置したら帰ってくる！」

のんきな Ｐ−７と心配そうな佳祐くん、そして、
「・・・ふむ・・・η波の波形が・・・」

ひたすら預かり物の分析だけやっている『先生』が取り残されたのだった。

さて、簡易罠の設置を続けている衛。だが、彼の全然想定しない敵が目の前に現れた。

「おまえ、なにやってる」
「えと・・あ、佐伯先生・・」

そう、保険の校医、佐伯柚流が校内を巡回していたのである。

「先生、こんな夜遅くまで居残りですか？」
「いや、ちょっと見回りにな」
「見回りですか？」
「ああ、仮にも警備員兼務だ、このくらいはしないとならないだろう」
警備員兼務の校医がいるのも、藍仙高校ぐらいだろう。

「それにしても、ちゃち罠だな、こんなものは目をつむっていても回避できる」
「そ、そうなんですか？」
「一体なんでこんな物を仕掛けてる？」

「いえ、実は・・・・」

場面は変わって特殊教育棟の屋上。
科学部部員のうち、天体観測班と、部長が天体観測の準備をしている最中。
そして、そのちょうど反対側で、歌の練習をする浴衣の人物が一人。
「一体だれなんだ？あれは・・・」
生徒会副部長でも、生徒全員を把握しているわけではない。

「みんな、準備できたか？私はすこし用事があるから出かけてくる」
「部長、行ってらっしゃい」

部員達はなにか差し入れでも持ってきてくれるのだと思ったようだ。
もちろん、差し入れも持ってくるのだが、彼の本当の狙いはそこにはない。

というわけで、再び場面は変わる。

ここは、第二科学部部室、本来は物理教室。

「♪や〜きゅうう〜うす〜るなら〜♪」
「よ〜し、こいっ！」

「いけ〜ランディの１００MPH速球っ」
「げっ」

見事に振り遅れ。さすがにこんなものはジャストミートできない。

「ちぃ・・・これで８連続三振か・・・あ、霰、せんべい取って」
「うん、いいよ、ケースケくん」
本来は護衛のはずだが、ＤＳのスーパーメジャーリーガーズＸを
仲良くプレイしている最中だ。
二人とも緊迫感という物はまるきり持ち合わせてない。
ある意味当然だ、普通学校の中でいきなり襲われる、なんてことはあり得ない。

しかし、ここは藍仙高校、普通でないことが起きるのである。
『ＳＣ空間を確認、オーギュメントを起動します』

「なんだとっ」
「あれ？ケースケくん気づかなかったの？」
「霰、おまえは気づいてたのかよ」
「うん、存在波を感知したから」
「いつもながら得体のしれないやつだな」
「無駄話はそれぐらいでいいか？」
「ああ、俺はいつでもいいぜ、部長さん・・・まて！」
「なんだ？」
「おまえ、いつオーギュメントを手に入れた？いままではディゾナントをまいて
逃げ回っていたじゃないか」
「 えと・・・あは、あはは」
「どうした？霰」
「何か知らないが、新作が出来たから差し入れだと言って持ってきたからな」
「あ〜ら〜れ〜」
「大丈夫だよっ、性能的には一緒だから互角互角」
「向こうにはディゾナントが着いているだろうが」
「痴話喧嘩はそれぐらいでいいか？」
「何が痴話喧嘩だっ！」

GUN BLAZE HEROが火を噴くと、一山いくらの粗雑なディゾナントは一撃で粉砕された。

「ふん、こんなもんだ」
「どうせあんなもの当てにはしてない、行くぞ！ハッカー」
「その名で呼んでもらえるとは光栄だな」

部長とケースケくん・・・ではなく、ハッカーの戦闘。
だが、部長の量産型オーギュメントの属性は「赤」近距離に飛び込まれると
「青」属性のGUN BLAZE HEROは弱い。
「ちっ」
「ケースケくん、あぶない」
「そう思うなら加勢してくれ」
「え〜、でも、私のオーギュメントは防御力は高いけど攻撃力０なんだよ」
「役に立たないな」
「とどめだっ！」

「そうはいくかっ」

そう、都合よく衛と佐伯先生が帰ってきたのである。
さすがにオーギュメント使い３人相手に一人では分が悪い。

「ちっ、今日はここまでかっ」
「まて、逃がすか」
「待てといわれて誰が待つか！」

ＳＣ空間を解除すると一目散に逃げ出す部長であった。結構間抜けである。

「逃げ足だけは早いな」
「ちぇ、逃げちゃった、もっとまじめに戦うかと思ったのに」
「遊ぶなよ」
「おまえ達、そろそろかえった方がいいぞ、日も暮れた」
「でも、送って変える約束したんです」

「いや、もう帰ろう、データが全部台無しになってしまった」
「先生、どうかしたの？」
「さっき、存在波干渉試験を行っている最中にＳＣ空間に取り込まれて
サンプルが破壊されてしまった。基礎データは取れたが、これ以上は検査できないな」
「畜生、あいつのせいで・・」
「いや、あながちそうとも言えない、あの程度で破壊されるなら、サンプルに欠陥があったんだよ。
それが分かったのだから感謝しないとな。

それより、遅くなる前に帰ろう。家の人も心配するだろう」
「一応送っていきます」
「ありがと、ケースケくん」

「じゃ、俺も一緒に」
「ああ、気を付けてな」
「佐伯くんも」
「あたしはまだ仕事なんでね」

こうして、一つの事件は終わった。
なお、科学部部員の何人かが衛の簡易罠にひっかかったらしいが、
第二科学部がらみならいつものこと、ということで処理されてしまったらしい。